2019年12月03日

「モミの手紙」

アメリカの詩人ロバート・フロストについては、以前「白い森のなかで」という絵本を紹介したことがある。

冬の静かな喜びについてうたうときは右に出る者はいないと言われている詩人だが、この絵本では、純粋な美や喜びの世界に、すこし違ったトーンが入りこんでくる...

「モミの手紙」(ロバート・フロスト作、テッド・ランド絵)

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冬も近いある日、香りのよいバルサムモミの山を持っている“わたし”のところに、町の商人がやってきた。
男はクリスマスツリーが欲しいのだと言う。


《彼らは、モミの木。断じてクリスマスツリーではない。
切り倒して金に替えようなんて、金輪際考えたこともない。》

《クリスマスツリーになって、いくばくかの金に交換されることをバルサムモミの木が知ったら、どんなに嘆くだろう。
おまえたちは、ここにいることで、大事な、たくさんの仕事をしている。
生きているからこそ美しく、立派なのだよ。》


たとえ高値がついても売る気はないが、“わたし”は男を案内して山へ入った。
男は木の品定めをして、1000本の木に対し、ただ同然の値を提示した。
売る気はないがどう考えても変だ。そんな取引は間違いだ。


《わたしは、この香りのよい、美しいバルサムモミの木を誰かに見てもらいたくなった。
そうだ、友だちに手紙を書く用事があった。
自慢のバルサムモミの木をまるごと一本絵に描いて送ろう。手紙に添えて。》

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posted by Sachiko at 21:44 | Comment(0) | 絵本
2019年11月17日

「ゆき」

ユリ・シュルヴィッツの絵本「ゆき」

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はしがきにはこう書かれている。

 雪が積もりゆく街の風景と
 雪を愛でる男の子の気持ちを
 みごとに描いた
 つめたく温かな雪の日のお話

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灰色の空から雪がひとひら舞い降りてきた。
「ゆきがふってるよ」と男の子が言う。
でも大人たちは、「これっぽっちじゃふってるとはいえない」「どうってことはない」「すぐとけるわ」などと、つまらなそう。

ラジオもテレビも、「ゆきは、ふらないでしょう」と言っている。
でも雪はどんどん降ってきて、やがて街じゅうが真っ白になる。

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この絵本の言葉はとても少ないが、よく見ると深い。

 ゆきは ラジオを ききません
 ゆきは テレビも、みません

 ゆきは ただ 
 はいいろのそらから まいおりるだけ

街を行く大人たちは、雪を見ずに、ラジオやテレビの言うことを信じる。
雪の最初のひとひらから、踊ったり回ったりしながら降り、あたりがしだいに白くなっていくようすを喜びながら見ているのは男の子だけ。
「わーい、ゆきだよ!」

こうしてまた冬の絵本を紹介できる季節になった。
わーい、ゆきだ♪
  
posted by Sachiko at 22:10 | Comment(2) | 絵本
2019年08月13日

「OLD CRAFTS」

9つの古い手仕事の世界を紹介している絵本。

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「時計職人」
職人は、特別な眼鏡をかけ、髪の毛ほど細かったり砂粒ほど小さな部品を扱って時計を修理しています。
この複雑な仕事には、安定した手の働きと、よい視力、そして多くの忍耐が必要です。

「人形のお医者さん」
人形のお医者さんは、壊れたり傷んだ人形を治します。
目や唇に色を塗ったり、まつ毛を植えたり、髪の毛もたくさんの色が用意されていて、病院を出るときには、人形は新品同様です。

「鍛冶屋」
熱く焼かれた鉄は白く光って柔らかくなっています。これをハンマーで叩いて鋭くし、また冷まします。
鉄の門扉はレースのように繊細な模様ですが、三人がかりで運ぶほど重いのです。

「靴職人」
かかとがすり減ったり、底がはがれたり、縫い目がほどけたりしたたくさんの靴を、靴職人たちが修理します。
靴の山の中からぴったりのもう片方をどうやって見つけるのか不思議に思うかもしれませんが、時々すこしばかりの運が役立ってくれます。

「菓子職人」
菓子職人が作るお菓子たちは、おいしいだけでなく見た目にも美しいのです。デコレーションはすべて手作業で、多くの技が必要です。
お菓子作りにはとてもたくさんの道具が必要ですが、作業場はいつも清潔に保たれています。

「家具職人」
職人は必要な大きさに板を切り出し、カンナをかけて滑らかにします。くるくる巻いたカンナくずが床に溜まっていきます。それから板を張り合わせ、乾かします。
職人はお爺さんの代から作られている家具に最後の仕上げを施しています。

「造花つくり」
この店の花は、サテンやシルクで作られています。これらの花をアレンジするには高度の技術が必要です。
砂糖菓子やアーモンドにスパイスで香りづけした花束は、いい香りがして、食べることができます。

「ろうそく職人」
この仕事は一見簡単そうに見えるかもしれませんが、実は多くの知識と技が必要です。作り方には、芯糸に溶かしたロウをかけていく方法と、型に流し込む方法があります。
特別なロウソクの場合は、ロウを模様の型に薄く流したものを、出来あがったろうそくに巻きつけて飾ります。

「洗濯屋」
ここではすべて手洗いで、大釜では一日中石鹸水が煮えたぎっています。洗濯物は、浸され、洗われ、こすられて、輝くようにきれいになります。
古風な洗濯場はいつも湯気でいっぱいで、水は壁や床に流れています。
女性たちはこのきつい仕事を徹底的にこなしていきます。

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ここに描かれている仕事の中には、今はなくなってしまったものもあり、とても数が少なくなっているものもある。

古い手仕事には、現代の「ビジネス」や「勤務」とは違った有機的な感触がある。「わたしの暮らし」「わたしのいのち」と離れていない、自分自身の仕事。
人々にとって、自分自身である喜びと誇らしさがある仕事は嬉しい。

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ブログは明日から数日お盆休みをいただきますm(_ _)m
    
posted by Sachiko at 22:47 | Comment(2) | 絵本
2019年07月18日

「The Lost Words」

「The Lost Words」(ロバート・マクファーレン ジャッキー・モリス)

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----あるときから、子どもたちの言語から言葉が消えはじめました...
はじめは誰も気づかないうちにそっと消えてゆき、やがてある日、それらはなくなっていました....

しかし、欠けたものを見つけ、消えたものを呼び戻すための古い魔法があります。正しい呪文が唱えられたら、失われた言葉は戻ってくるかもしれません----


失われたのは、子どもたちの周りの自然界に関する言葉だった。
それも、そう珍しいものではなく、かつてはごく普通に身近に見ることができたはずのものたち....
こんなものまで失われてしまったのか?と思う。

ドングリ、ブルーベル、シダ、タンポポ、ヤナギ、ツタ....

だが...私が子どもの頃には、すでにこれらの言葉はそっと消え始めていた。
約27p×38pのこの大型本には、植物だけでなく鳥や小動物の名前も出てくるのだが、地域が違うということを考慮しても、都心に近いところに住んでいた私は、野鳥や野生動物は身近に見たことがなかった。

ヒバリ、カワセミ、ムクドリ....

カエルの卵やオタマジャクシも、かろうじて遠足に行った先で見たことがあるだけだ。


この本では、失われた言葉を取り戻すために、それぞれの名を冠した詩(正しい呪文)と、美しい絵が描かれている。
そして、読んでいるうちに、失われたのはここに出てくる生きものの名前だけではないことに気づく。

朝露、夕焼け、陽だまり、木陰....
三日月、半月、一番星....
うろこ雲、入道雲、霧雨、夕立....

こうした言葉は今、子どもたちの生活の中にあるだろうか。
人々がもっと自然に近いところに暮らしていた時代には、空模様を読むことや月のフェイズを見ること、動植物の名前を知っていることはあたりまえだったはずだ。

失われた言葉に気づくとき、それらへの関心が戻ってくる。意識を向けられたものはこの世界に居場所を持つようになる。ここにある詩や絵は、その場所へ導く小道のようだ。

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posted by Sachiko at 22:38 | Comment(2) | 絵本
2019年07月07日

「魔女の庭」

「魔女の庭」
これも、魔女だと噂されるおばあさんと子どもたちのお話。

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大きな庭のあるその家の前を通るたび、子どもたちは「あの家には魔女がいるんだよ」とささやきあいました。

ある日みんなは、怪獣に変装して魔女をおどかそうと、庭に入りこみました。

「だれだい?」顔がのぞくとみんなは「魔女だっ!」と叫んで庭へ散っていきました。

おばあさんは笑って「中へおはいり」と言いました。そんなに怖い人ではなさそうです。

「なんて、たのしいんだろう」と、おばあさんはたくさんのパンケーキを焼き、子どもたちはすきなだけシロップをかけて食べました。

それからみんなは庭に出て、池のそばの木の下にすわりました。おばあさんは、ここには妖精が住んでいるのだと言います。

「妖精なんて、ほんとはいないんだよ」
「見たことがない人はそう言うがね。いちどでも見たことがある人は、知っているのさ」

おばあさんは少女のころ、夏の夜にこの池のほとりで、妖精たちのお祭りを見たそうです。

みんなはそれからブナの木の下へ行き、手を取りあって木のまわりを踊りまわりました。家に戻るとき、なんだかもっとたくさんの人たちがいっしょにいるような気がしました。

おばあさんが歌いだすと、いつのまにかそこに小さな男の人が立っていました。
「この人は、ワラ=クリスタラさんだよ」
クリスタラさんは、どんな家にも小人はいるのに、気にかけてもらえないと嘆きました。

子どもたちはもっといろいろ聞こうとしたのですが、とつぜん、小人の姿は消えてしまいました。

「どこの家にも小人がいるって、ほんとう?」
「おまえさんたちは自分の耳で聞いたろう?」

子どもたちはみんな、自分の家の小人たちのために何かしてやりたくなって、おばあさんにお礼を言いながら大急ぎでかけだしました。

いちばん年上のヤコブが、怪獣に変装したときの道具を取りに戻ってきて、思いました。
「もしかしたらおばあさんは、ぼくたちに魔法をかけたのかしら...」

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昨日のカーリーおばさんもそうだが、身近な不思議を大切に思うことや、想像力という魔法を使えるおばあさんは素敵だ。
これは私の絵本コレクションの中でもお気に入りの1冊で、緻密で繊細な絵が美しい。

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posted by Sachiko at 21:42 | Comment(2) | 絵本