グリーン・ノウ物語第3巻「グリーン・ノウの川」より。
夏休みの終わりが近づいたある日、ミス・シビラの荷物を持って村のバス停まで送ったピンは、すっかり興奮して帰ってきた。
ピンは村の店で、『新人大スター 巨人テラック出演』と書かれたサーカスのポスターを見たのだ。サーカスは今夜始まる。
ピンは店で荷下ろしの手伝いをしてお金を少しもらっていた。
「・・・店の人たち、人手がたりないんだって。ぼくたち三人が行って手伝えば、ビギン博士をお礼にサーカスへ招待するくらいのお金ができるんじゃない?」
サーカスのショーが始まり、さまざまな出し物を見ても、子どもたちはテラックを待ちかねていらいらしていた。
ついにテラックが登場したが、博士は他の出し物のとき以上の興味を示してはいなかった.....
道化になったテラックの演技はすばらしかった。観客は興奮して大喜びだった。三人は博士にきいた。
「あの巨人をどう思った?あれが証拠になるでしょ、ね?もうだれも、おばさんのあの歯がほんものでないなんて言えませんよ、ね?」
だがビギン博士の答えはこうだった。
「かれはとてもおもしろかった。とてもすばらしいこしらえものだったわ。」
びっくりした子どもたちがどんなに彼はほんものだと主張しても、博士は作りものだと言い張って取りあわなかった。
「だけど、おばさんは巨人を信じてたんでしょ?」
「たしかに巨人がいたことを信じてます。そう、二千年前にね。
今はもうぜんぜんいないのよ。」
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「ピン、がっかりしたわ。おとなにはなんにもしてあげられないのよ。おとなってどうしようもないものなのよ。」
ピンはため息をついた。
「ぼくにはわからないな。それが世界じゅうでいちばんほしいもので、しかもそれが目の前にあるっていうのに、なぜ見ようとしないのかしら。」
オスカーはもったいぶって言った。
「おとなってものは、しょっちゅうそうなんだ。“いま”あるものはきらいなんだ。ほんとうに興味ぶかいものがあるとしたら、それは“むかし”のものでなくちゃならないんだよ。」
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こうして本物の巨人テラックの姿は、見ようとしない博士の目には見えなかった。
モード・ビギン博士にとって、巨人がいた痕跡は過去の地層から出てくるべきで、今目の前にいてはならなかったのだ。
あの発掘委員会の人々にとって、巨人の歯が認めがたいものだったのと同じように....
三人の子どもたちのぼやきで、物語は終わっている。
でもこの夏休みがすばらしかったことに変わりはない。
この章の始まりにはこう書かれている。
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夏休みが毎日こんな冒険の連続になろうとは、だれだって予期していない。アイダとオスカーとピンは、することがなくなったり、退屈したりすることは、まったくなかった。
あたりまえの楽しみならたくさんあり、まったく同じということはないとしても、なんどかくり返すことができる。
だがほんとうの冒険というものは、けっして二度とくり返すことができない。そういう冒険を子どもたちはしたのだった。
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これで、普通のレジャーとほんとうの冒険とが、天と地ほど違うものであることがわかる。
グリーン・ノウでの夏休みは、子どもたちの中で生涯輝き続けるだろう。
川の冒険でなくても、生涯輝き続けるような何かを自分自身の内に見出すことができるなら幸せだ。
ところで最後に測ったとき、アイダの身長は2センチほど伸びていた。
アビシニア種パラドゥルラの効果かどうかは定かではない。
2020年09月10日
道化テラック
posted by Sachiko at 21:29
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| ルーシー・M・ボストン
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