グリーン・ノウ物語第3巻「グリーン・ノウの川」より。
グリーン・ノウの川はけっこう大きな川なのか、幾つもの島があり、支流がある。ある朝子どもたちはカヌーに乗って、家の裏側にある川を漕いでいった。
人目につかず、草が生い茂り、倒木が川をせき止めている場所を超えてカヌーを進めた先で・・・
腰に粗布を巻いただけのやせた男が釣りをしていた。
この世でたったひとりで生きている人間の、不思議な表情を浮かべて。
「魔法使いだよ。」ピンがそっと言った。
「あの人、逃げてきた難民だよ。」オスカーが言った。
オスカーはたびたび難民という言葉を口にした。
1羽だけはぐれてしまった白鳥のヒナを、難民ひな鳥と呼んだ。
そしてこの場所に来る前、ツタに覆われた廃屋を見つけて、アイダが悪魔の隠れ家だと言ったときもオスカーは、「悪魔の難民だね」と、夢でも見ているような声で言った。
子どもが難民になるというのがどういうことかは想像を超える。
彼らは家族を失い、外国にいて、母国語ではない言葉を話している。
ピンがあいさつすると、男は振り返った。
「どなただな?」
「ぼくたちも難民なんです。」オスカーが言った。
アイダが差し出したキャンデーを味わうと、彼は少しずつ過去を思い出し始めたようだ。
「・・・朝めしにはベーコン・エッグ!あったっけ、ベーコンってのが!」
男の気持ちがわかった難民のオスカーとは違い、アイダは途方に暮れてこんなことをきいた。
「ベーコンを、切らしてたんですか?」
「・・おじさん、食べものを十分食べてないんじゃない?お店でベーコンを売ってないんですか?」
「店だって?」男は軽蔑したように言った。
「お金を持ってないの?」
「持ってないし、ほしくもないさ。わしがここに来たのは、お金の話にあきあきしたからだよ。
だれもかもが、それを手に入れるために生涯はたらきつづけ、だれもかもが、くる日もくる日も、しょっちゅう、それがたりないと言っている・・・」
彼は、元はロンドンのバス運転手だったと言った。
人間というものがいやになり、ある日、ここに来たのだという。
子どもたちは木の上の小屋に案内された。
小屋には蓄えた木の実や草の実、川で拾ったという生活道具があり、きれいに整えられて、片隅にはバス運転手用の服がぶら下がっていた。
彼は誰にも気づかれずにここにいる。
「ぼくたち、けっしてだれにも言いやしないよ。ぼくたちも難民なんだもの。」オスカーが言った。
ふいに男は、子どもたちがカヌーの跡を残したかどうかを気にしはじめた。誰かが気づいてここに来ては困るのだ。
「さあ、行きな。もうここへくるんじゃないぞ。
・・・わしはきみたちの夢を見た。きみたちはわしの夢を見た、な?」
黙ってカヌーを漕いでそこを去った子どもたちだったが、去る前にアイダはブリキ缶にキャンデーを入れ、ピンは枕の下にナイフを置き、オスカーは運転手の服のポケットに釣り糸を入れてきたことがわかり、みんなは幾らか気がらくになった。
家に帰るとミス・シビラがすばらしい朝食を用意してくれていた。
つまり、悪魔が棲んでいそうな廃屋の冒険も、世捨て人に会ったのも、朝食前の出来事だったのだ....
子どもの時間と空間は、大人のそれとは違っている。特に夏休みには。
好んで隠遁生活に入った川の世捨て人は、難民だろうか。
ふつうの人々のふつうの時間から抜け出さざるを得なくなったのだから、ある意味難民かもしれない。
時計もカレンダーも持たない彼の時間は、どこか子どもの時間に似ているようで、やはり全く違う。
「みんなでまた、あの人に何かおいしい食べものを持っていってあげたいわ」とアイダは言った。
アイダは難民ではない幸せな子どもだということも浮かび上がってくる。
2020年07月30日
難民と世捨て人
posted by Sachiko at 21:49
| Comment(2)
| ルーシー・M・ボストン
もっとも人間らしかった時代へ
時間を遡って
亡命したい
という思いが
ますますますます
強くなる
きょうこのごろ。
が
はたして
地球上にそういった時代は
あったのか?
いっそのこと
異次元
あるいは
別の星へ
亡命しようか。
星空を眺めながら
亡命先を思案する
きょうこのごろ。
精神的亡命者
精神的難民
ではあるな。
すでに(笑)
霊的なへその緒でダイレクトにつながっていた、
太古の時代があったことでしょう。
でも人間は“生まれる”必要があった。
自動的に神性をまとっているのではなく、
いちど神の家を離れて、
充分に発達させた個我で、意識的に帰還を選ぶ。
放蕩息子の逸話のように、闇の極みを通り抜けて。
地球という星は、人間がそのようなプロセスを体験するために
用意されたと言われていますね...