2019年11月07日

マウルブロン修道院

マウルブロン修道院は、ヘルマン・ヘッセの作品の中でも特に美しく香り高い『ナルチスとゴルトムント』(邦題「知と愛」)の中で、「マリアブロン修道院」という名で登場している。

マウルブロンの神学校は、ヘッセが少年時代に短いあいだ在籍し、逃げ出した場所だ。
神学校時代の苦難は「車輪の下」に描かれている。未来小説である最後の大作「ガラス玉演戯」の舞台も、マウルブロンがモデルのようだ。

ここはぜひ行きたい場所だった。
旅行者がほとんど行かないような町の駅裏のバスターミナルに着くと、ちょうどマウルブロン行のバスが来た。
行先表示板の「Maulbronn」の文字を見て大いに感激したのだった。

田舎道をしばらく走ったあと鐘楼の塔が見えてきたところで降り、湿った落ち葉の匂いがする坂道を下ると修道院があった。

今ではすっかり観光地として賑わっているらしいが、私が行った時はほとんど人がいなかった。しんとした回廊に沿って暗く冷たい石の僧房が並んでいた。

こんな僧房に、若い修道士ナルチスはいたのか....
物語は、少年ゴルトムントが父親の意向で神父になるべく修道院内の学校に編入させられたところから始まる。
だがナルチスは、ゴルトムントの本質が芸術家であると見抜いた。
あらゆる点で対極にある二人の友情は奇妙なものだった。

ナルチスの名言が幾つかある中で、私は特にこれが気に入っていた。

「神に対する愛は、必ずしも善に対する愛と一致しない。
ああ、それほど簡単ならいいんだが!」
(Die Liebe zu Gott, ist nicht immer eins der Liebe zum Guten. Ach, Wenn es so einfach wäre!)

運命に呼び醒まされたように、ゴルトムントが修道院を出ていく夜、長い修行中のナルチスを訪ねる。
それもこのような石の小部屋だったのだろう...と、回廊を歩きながら思った。

ここで感じたものは、晩秋のドイツの暗さと寒さ、中世の石造建築の重さ、そして....前にも書いたことがあっただろうか、時間の重さだ。

何世紀もの時間が層になって覆いかぶさってくるような....
暗い祭壇に灯るたくさんのロウソクの灯りも、空間だけでなく時間をも炙り出しているような気がした。
冬を前にした暗い11月には、時折あのずっしりとした時間を思い出す。

maulbronn.jpg
  
posted by Sachiko at 22:31 | Comment(2) | ドイツ関連
この記事へのコメント
中世の石造建築の回廊
を歩くと
古の人々の足音や話し声が
聞こえてきそうです。
Posted by しゅてるん at 2019年11月11日 07:52
特に、寒く暗い季節には、
静かに張りつめた過去の精神が
満ちてくるような気がしました。
あの感覚、うまく言葉にできませんが...
Posted by Sachiko at 2019年11月11日 22:40
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