マリア・グリーペ「鳴りひびく鐘の時代に」より。
アルヴィドは夏至祭のあとまで結婚式を延期したいと言い出した。
エリシフはアルヴィドのことがまったく理解できない。でも結婚は星のお告げで決まっていて、天命は変えようがないとエリシフは言う。
「星の定めには、すなおにしたがわないと....。」
姉のエンゲルケは、わたしなら自分で決めると言う。
「星に、なにがわかるの?――自分の考えや気持ちを信じないで、ひとにぎりの占星術師の言葉で決めてしまうなんて、わたしは、いやだわ、ぜったいに!」
そして真顔で言った。
「…結婚する前に、ようく考えなさいね。アルヴィドのためにも、自分のためにも、そして、もうひとりの人のためにも...」
エンゲルケは人々のあいだの奇妙な形式になじめなかった。
父が亡くなったときも、大事なのは父その人ではなく、葬儀だった。エリシフの結婚についても、大事なのはふたりの人間のことではなく、婚礼の儀式だった。
王や貴族のあいだでは、喜びや悲しみをあらわすのも礼儀の問題でしかなく、感情と結びついていない。
エンゲルケには、この先の自分の人生が見当もつかない。修道院に入るのがひとつの道かもしれない...
アルヴィドがやってきて、婚礼を取りやめにしたい、エリシフのほうからことわってくれるように、エリシフに話してもらいたいと言った。
「ぼくは、エリシフにふさわしい愛し方をしてあげられない...」
それから星の話になった。地球は丸い、平らではないのだとアルヴィドは言う。もうしばらくすれば、誰もがそのことを認めるようになるだろう、と。
「…新しい世界を迎えるためには、ぼくらのほうも変わらなければならない。知識を深め、感覚をみがかなくてはならないんだ。はてしない宇宙に浮かぶこの星、地球への、愛と理解を深めなくては...」
いつの時代にも、新しい時代を見据える人々はいる。
この言葉はそのまま現代人へのメッセージのようだ。それはそうだ、これは中世に舞台を借りた現代の物語だ。
アルヴィドはエンゲルケと話すときには、ヘルゲと話すときと同じような話し方をする。
「…地球はまだ“平たい”。人間はまだ眠っている。」
ふと「現在、人類の大部分は寝過ごしている」というシュタイナーの言葉を思い出した。
中世が終わって以降、人間は星々の力から離れ、唯物論の時代に突入した。現代においては、星と人間との真のつながりは忘れ去られてしまっているが...
この物語での星のお告げはどこへ向かうのか...。
300ページを超える物語をかなり端折っているので細部が伝わりにくいかもしれないが、宮廷付きの道化、死に装束の舞踏、修道士と首切り役人などなど、中世の香りが行間に満ちている。
2019年01月25日
星と運命
posted by Sachiko at 22:09
| Comment(2)
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とやらで
人の眠りは
ますます深く
なっていくの
でしょうね。
違いがわからなくなる深い眠り.....(>_<)