2019年01月22日

ヘルゲとエリシフ

マリア・グリーペ「鳴りひびく鐘の時代に」より。

ヘルゲはアルヴィドのことを考えながら、いつかのゴブラン織りを見に出かけた。その途中、あのときと同じ扉の陰から、この世のものではないように見える少女の姿を見た。

中へ入ったとき、少女は生身の人間だとわかった。少女の姿は、ヘルゲの心の奥深くをはげしく揺さぶった。
・・この人もおれも、ちゃんと生きている・・・ヘルゲは少女の髪に触れ、そっとくちづけをした。自分の居場所、行くべきところは彼女のもとだと感じた。

「わたしは.....わたしは、王妃になりますの。」
だがエリシフは、アルヴィドのことがわからない、怖いと思っているのだ。
ヘルゲは言った。
「アルヴィド王に愛情が持てないのなら、妃になるのはよくないことだ。」

アルヴィド王とエリシフは別々の世界に生きている。うまくやっていけるはずがないと、ヘルゲは思う。


アルヴィドがヘルゲを部屋に呼び入れ、暖炉の前で話をしたときのこと...。
アルヴィドはこの闇と静けさがいちばんくつろぐ、ふだんなら理解できそうもない思いも浮かんでくるという。
「…神秘な声も聞こえてくる。こういうものがなければ、ぼくはこの世に生きるのがつらい.....。」

ふたりは多くを語り合った。ふたりの経験は、表面は別々なのに、中身はほとんど同じに見えた。
そして話はエリシフのことになった。

「ぼくにとってはその日その日が底知れぬ深淵.....こんなぼくのことが、エリシフにわかってもらえるはずがない。…あの子は深淵など、目に入らないのだ。エリシフの明るさは、ぼくに苦しみをもたらすだけだし、エリシフはぼくをこわがっているらしい。」


アルヴィドとエリシフの、相容れない別々の世界。でも二つの世界はヘルゲの中ではつながり、どちらのこともわかる....
ではヘルゲの世界はどんな世界だろう。
ヘルゲもエリシフのように、明るいよろこびの世界の住人だ。だが深淵も見える。光を掲げて深淵へ降りていき、そこを照らすこともできるだろう。
彼は・・・力強い生気にあふれた愛の人だ。

ヘルゲとエリシフが愛し合っていることに気づいている人はもうひとりいた。エリシフの姉のエンゲルケだ.....
 
posted by Sachiko at 21:51 | Comment(0) | マリア・グリーペの作品
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