2020年11月06日

「輝く子供」

W・B・イエイツ編「ケルト幻想物語」には、魔女や巨人、王族や聖者の伝説、幽霊譚などが集められている。
妖精については、姉妹編の「ケルト妖精物語」のほうに収録されている。

幽霊話の中で私が一番好きなのが「輝く子供」という、3ページほどの短い物語だ。

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ある日、狩りの獲物を追って道に迷ったスチュワート大尉は、ある邸に一夜の宿を求めた。
主人は、その日は来客が大勢あり充分なもてなしはできないと言いながらも、執事に客の接待を言いつけた。

執事が案内した部屋には、家具はほとんどなく、暖炉に泥炭が明るく燃え、急ごしらえのベッドが置いてあった。
大尉は、燃えさかっている暖炉の火を少し落としてから眠りについた。

二時間ほどたって不意に目を覚ますと、部屋は燃えるように明るかった。暖炉の火は消えていて、光は煙突から射していた。

光の正体を見ると、眩い光に包まれた美しい裸の少年が目に入った。少年は大尉を見つめていたがやがて消え、あたりは真暗になった。

大尉は誰かの悪ふざけだと思い腹を立てた。主人は何か失礼があったことを知り、訳を尋ねた。主人には思い当たることがあり、執事を呼んで言った。
「昨夜、スチュワート大尉はどの部屋に休まれたのか?」

執事は答えた。
「どの部屋もいっぱいでしたので、『子供の部屋』にお連れしました。子供が出てきませんよう、火を盛んに燃やしておきましたが」

主人はこの家に伝わる云い伝えを打ち明けた。
『輝く子供』を見た者は、必ず最高の権力に到達する。が、頂点に達するや、非業の最期を遂げるだろう...というのだった。

「『輝く子供』が現われたことは記録にも残っておりますが、それを見ると確かにこの言い伝えどおりになっているのです」

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ここにも、泥炭の燃える暖炉が出てくる。
幽霊話の章に入っているが、子供が幽霊なのか何なのかはよくわからない。

火と暗闇と輝く子供、この単純なコントラストがいっそう不思議さを掻き立て、大尉が逃れられない運命を刻印されてしまったことを突きつける。

ケルト民族は、この世と異界のあいだを容易に行き来していたという。
神秘な薄明りの中を漂うことが自然であるような人々が存在した地は、時間的も空間的にも遥か遠いのに、郷愁を誘う。

本には、ドロシー・ラスロップの魅惑的な絵が添えられている。
   
posted by Sachiko at 22:25 | Comment(2) | ケルト