2020年09月16日

「グレイリング--伝説のセルチーの物語--」

「グレイリング--伝説のセルチーの物語--」
(ジェーン・ヨーレン文 / デヴィッド・レイ絵)

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・・・昔、海辺に漁師の夫婦が住んでいました。
ふたりは暮らしに満足していましたが、子どもがさずからないことを悲しんでいました。

ある夏の日、漁師は迷子になったアザラシの子を見つけ、上着にくるんで家に連れて帰りました。

妻が上着を受けとると、そこにいたのはアザラシではなく、灰色の目と灰色の髪をした子どもでした。

「セルチーだ!陸では人間、海ではアザラシというセルチーの話、あれは作り話だと思っていたのに」

「あなた、この子は陸の上では人間でいられるのね」

夫婦は、絶対にこの子を海には帰すまいと思い、子どもをグレイリングと名づけて育て、けっして海に行ってはいけないと言い聞かせていました。

グレイリングが若者に育ったある日、この地方に激しい暴風雨が襲い、漁師の舟は沖合で沈みそうになっていました。

「だれか、あのひとをたすけて!」
妻は叫びましたが、町の人たちは誰も命がけで漁師を助けようとは思いませんでした。

「母さん、ぼくが父さんをたすける」
そう叫んでグレイリングは海に飛び込みました。

波の下で、グレイリングは大きなアザラシの姿になり、漁師を助けて岸に連れ帰ると、沖に向かって行きました。

海岸ではグレイリングの服だけが見つかり、町の人たちは彼が溺れたのだろうと思いました。

夫婦は悲しみながらも、海に帰ったのはあの子にとってよかったのだ、と思いました。

その後、年に一度、夫婦の小屋のそばの海にグレイリングが帰ってきて、はるかな海の物語や歌を聞かせるのでした....


海ではアザラシ、陸では人間というセルチー(ここではセルチーと書かれているが、一般にはセルキーと表記されることが多い)の伝説は、スコットランドの島々に伝わっている。

子どもが灰色の目と髪をしていたように、そのあたりにいるのはハイイロアザラシだそうだ。

アイルランドでは、ローンと呼ばれる同様のアザラシの化身の伝説があり、動物と人間のあいだを行き来するこのような存在の話は世界中で伝えられている。
そして動物の化身は、たいてい最後は動物界に帰っていくのだ。

アザラシはアイヌ語で「トッカリ」という。
北海道の海沿いの町では、今もふつうにアザラシをトッカリと呼ぶ人たちも多い。
    
posted by Sachiko at 22:21 | Comment(2) | 絵本