2020年09月04日

月の魔法・2

グリーン・ノウ物語第3巻「グリーン・ノウの川」より。

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太陽がかがやいているときには、みんなまぶしがって、それから目をそらせる。だが月は、見るひとの目も心も空のてっぺんに引きよせる。

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グリーン・ノウは、いつもとは全く違う姿、まるで柳細工のかごのように見えた。
ピンが言った。

「へんだと思わない?月の光が、まるで家ぜんたいをすきとおっているみたいだ。」

「あれはイグサでできてるんだよ。」とオスカーは、まるでそれが当然のことのように言った。
月の催眠術にかかってしまった子どもたちは、異様なものに気づいた。

それは枝角を生やした雄鹿の頭を持ち、足は人間の素足だった。
鹿の角をつけ槍を持ち、牙や角や歯のじゅずを首からぶら下げた奇妙な狩人たちは、月に向かって、恐ろしい身ぶりで儀式の踊りを始めた。

子どもたちは、儀式を終えた狩人たちが襲いかかってくるように感じたが、彼らは傍を通り過ぎて川に向かい、カヌーで遠ざかっていった。


すべてが過ぎ去ったが、子どもたちは、どこへ行けばよかったのだろう。
オスカーが言った。

「・・・ぼく川には行きたくないな、もうたくさんだもの。ぼくたち、もうほんとうに難民になっちゃったんだ。」

三人は、よそよそしい“編んだ家”に向かった。
そのとき、雲に隠れていた月が現れ、美しい光の下でグリーン・ノウがふたたび穏やかな姿を現した。

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子どもたちはうれしくなり、ほっとして息をついた。そして、目に見えるものをしっかりと見すえ、ふたたびどこかへ見失ってしまわないように、だいじに心に暖めながら、ゆっくりと家のほうへ歩いた。

その夜、三人は同じベッドで眠った。なぜって、オスカーも言ったとおり、「もうたくさん」なほどのことをかれらは経験したのだった。

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朝食の時、思いがけずミス・シビラが話に加わり、さらに月の詩まで朗読した。

 清らかな、美しき、狩りの女王よ
 すでにはや、太陽は眠りにつけり―
 きみはいま白銀の玉座につきて
 目もあやに輝かせ、安らけき世を

「ゆうべはとてもロマンチックだったのよ。・・・とってもしぜんな気もちになったの。芝生でダンスをしたくなりましたよ。」

子どもたちはおどろきでいっぱいの目でシビラ・バンとそのビーズの首かざりを見つめていた。


真夜中の月の魔法にかかり、守ってくれるグリーン・ノウさえ失ってしまったように見えたときも、彼らはひとりぼっちにはならず三人いっしょにいられた。

ここではイグサも、楽しい昼間、静かな池のまわりで揺れていたイグサとはまるで違っていた。

グリーン・ノウはとても古い家で、多くの不思議が満ちている。
それよりもはるかに古い時代、ここで何があったのかは誰も知らない。

グリーン・ノウでは時々時間が交錯する。満月の夜、子どもたちはそんな時間を拾ったのか、それもあの古い羊皮紙の手紙といっしょに長い年月封じ込められていたものを開けてしまったからかもしれなかった。

そして、ミス・シビラが見せた思いがけない不思議さ。
明るく楽しいばかりではない深さ不思議さが、この物語の醍醐味でもある。
子どもは、深淵からそう遠い存在ではない。
  
posted by Sachiko at 22:12 | Comment(2) | ルーシー・M・ボストン