「名前の掟」(アーシュラ・K・ル=グウィン)
この短編は、のちの長編「ゲド戦記」の数年前に書かれた、いわば胚芽的な作品とされている。
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ミスタ・アンダーヒルは、サティンズ島でただ一人の魔法使いだが、魔法の腕はたいしたことはない。
学校では若く美しい先生が「名前の掟」について話していた。
掟はふたつあった。
「ひとに名前を聞いてはならない」
「自分の名前をひとに言ってはならない」
子どもたちが学校を卒業すると、子どもの名前は捨ててほんとうの名前だけを守っていく。
それは尋ねてもならないし言ってもならない。まことの名を口にすれば、そのものを操ることになるからだ。
ある日よその若者が舟で島にやってきた。みんなはすぐに黒ひげという名前をつけてやった。
黒ひげは漁師に、魔法使いのところへ案内してくれるよう頼み、ひとつの話をした。
「多島海のまん中にあるペンダーという島に、ある日、西海から竜がやってきて領主を殺した。人々は舟で逃げ出した。竜は財宝の上を這いまわり、近くの島を襲って若い娘を食った。
多島海の連盟は魔法使いたちとともに財宝を取り返しに向かったが、ペンダーではひとりの魔法使いが竜を打ち負かし、宝を持って逃げたあとだった」
黒ひげは魔法使いであり、ペンダーの領主の末裔で、逃げた魔法使いの居場所を突きとめて来たのだった。
ふたりの魔法使いの闘いがはじまった。そして黒ひげは、ミスタ・アンダーヒルの真の名を知っていた・・・・
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作者の前書きによれば、胚芽的な短編は、後の長編の舞台を提供してくれた、とある。
「名前の掟」の舞台は後の「ゲド戦記」の舞台となる多島海の島で、魔法使い、竜、そして名前の掟というテーマは、「ゲド戦記」シリーズへ大きく拡がっていった。
久しぶりに「ゲド戦記」の中の多島海の地図を見てみた。
「名前の掟」のサティンズ島は東側にあり、ペンダーは真ん中あたり、西海域には「竜の道」という小さな島々が描かれている。
魔法が生きている多島海の文明では、魔法使いは、あらゆるものの真の名に使われている太古のことばを知らなければならない....
この世界においても、人間が得た「言葉」というもの自体が、根源の魔法そのもののように思える。
古い時代には、言葉ははるかに注意深く扱われなければならなかっただろう。
そして「名前」は、そのもの自身を表わす。
例えばたくさんの俗称や通称を持つ植物でも、学術的な意味での真の名である学名で呼べば、一発でどの植物かがわかる。
日本語には「言霊」という言葉があるように、言葉は霊力だった。
力ある言葉がそのまま「呪文」であり得るなら、そのような文明には常に、魔法使いに相当する賢者も存在したはずだ。
魔法使いが登場するファンタジーが数多くある中、私はル=グウィンが描く魔法には説得力を感じる。この魔法の話はまた別の機会に.....
(※「名前の掟」は、「風の十二方位」というアンソロジーに収録されている。)
posted by Sachiko at 22:27
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