2019年12月18日

「小人のすむところ」

「小人のすむところ」(H・C・アンデルセン作/イブ・スパング・オルセン画)

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裕福な食料品屋の建物の屋根裏に、貧しい学生が住んでいた。
食料品屋には小人もいた。ここにいればクリスマス・イブが来るたびに、バターがのったおかゆがもらえるのだ。

ある夜、学生がろうそくとチーズを買いに来た。チーズを包んでいた紙は、古い詩の本のページだった。
学生はチーズの代わりにその本をまるごと買うことにした。本がばらばらにされるなんて、とんでもないことだ。

「ご主人、あなたは立派なかたですが、詩についてはここにある樽ほどもご存じない」

みんなが眠った夜中に、小人は奥さんのおしゃべり口を取って、古新聞が詰まった樽にくっつけてみた。樽は言った。

「詩というやつは、新聞の下の欄に出ているものだ。おれの腹にはたくさん詰まっているさ」

小人は学生に教えてやろうと屋根裏へ上っていった。
鍵穴からのぞいて見ると、本から強い光がさして大きな木になって学生の上にそびえていた。

葉はみずみずしく、花はすべて美しい少女の顔で、実はきらめく星、そして美しい音楽が流れていた。

小人は驚いた。
「これはすごい、学生さんのところに住みつこうかな・・・でも学生さんちにはおかゆがないな」

それからというもの小人は、屋根裏からあかりが射してくると、鍵穴からのぞきこまずにいられなかった。
そして、大きな力に包み込まれたような気分になり、心を洗われたように涙を流すのだった。

ある真夜中、通りで火事が起きた。
ご主人は債券を、奥さんは金の耳飾りを、使用人の娘は絹のショールをと、誰もが一番大切なものを持ち出そうとした。

小人は学生の部屋にとびこんだ。学生は落ちついて窓から火を見ている。燃えているのは向かいの家だった。
小人はあのすばらしい本をつかんだ。家いちばんの宝が助かったぞ!

こうしていると、小人は自分の心がどこにあるかがわかった。けれど火が消えて我に返ると・・・
小人は自分をふたつに分けることにした。食料品屋をおさらばするわけにもいかない。おかゆのためにも。

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昔、アンデルセン童話の挿絵の原画展があり、そこでイブ・スパング・オルセンのこの絵も見たことがある。

この小人は北欧ではおなじみの家や農場にいる小人で、スウェーデンではトムテ、フィンランドではトントゥ、デンマークではニッセと呼ばれる。
クリスマスには、家や農場を守ってくれるはたらきに感謝しておかゆを出しておく習慣があるそうだ。
この童話の原題は「食料品屋のニッセ」だ。

最後のページは、これもアンデルセンらしさなのかこのように結ばれている。
「・・それこそ人間らしいってものだ。なぜって、わたしたちだってやっぱり食料品屋のほうにいくからね。----ほら、おかゆのためにさ。」

小人へのおかゆの習慣のような、古い民間伝承が生き生きと生きていた時代のことを思う。
超自然的な次元とのつながりをまだ失っていなかった人々の、素朴な暮らしの深みの中で、時間は今よりもはるかにゆっくりと流れていたことだろう。

わが家でも、イブには家の妖精のために、バターをのせたおかゆを玄関に置いておく。
予報では何とか雪のある真冬日のイブになりそうだ。

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posted by Sachiko at 22:34 | Comment(0) | 絵本