
ラーゲルレーヴの「キリスト伝説集」に納められているこの物語は、セルマ自身が幼い頃に祖母から聞いた話だという。
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あるクリスマスの日、みんなは教会にでかけ、“わたし”とおばあちゃんだけが家に残りました。ひとりは幼すぎ、もうひとりは歳をとりすぎていて、連れていってもらえなかったのです。そして、おばあちゃんは話を始めました.....
ある暗い夜、ひとりの男の人が火をもらいに家々をたずね歩きました。
「妻が赤んぼうをうみました。あたためてやるための火を分けてください」
けれど返事はありませんでした。
先へ行くと、たき火のそばで羊たちがねむり、羊飼いが番をしていました。
男の人が近づくと、番犬たちがほえて飛びかかりましたが、男の人は傷ひとつ負いませんでした。
男の人は羊たちの背中をふんで火のそばへ行きましたが、羊たちは目をさましませんでした。
意地の悪い羊飼いは杖を投げつけましたが、男の人に当たりませんでした。
「おねがいです。火をわけてください。妻と赤んぼうをあたためてやりたいのです。」
羊飼いは、犬も手出しができず、羊も逃げず、杖も当たらなかったのでこわくなり、「いるだけもっていけ」と言いました。
男の人は火を運ぶシャベルを持っていませんでしたが、素手でおき火をつかみ、マントでつつみました。
手はやけどをせず、マントもこげませんでした。
羊飼いは不思議に思い、ききました。
「今夜はいったい、なぜなにもかもがおまえさんに親切にするのかね?」
男の人は、「それはなんとも、察してくださらねば」、そう言って行ってしまいました。
羊飼いは、わけを知ろうとしてあとをつけました。すると、そこには人の住むような家はなく、母親と赤んぼうは冷たい岩屋の中で寝ていました。
羊飼いは冷たい心の人でしたが、赤んぼうを助けたい気持ちでいっぱいになり、袋からやわらかい羊の毛皮を取り出すと、その上に赤んぼうをねかせてあげるように言いました。
すると、羊飼いの目が開いて、見えなかったものが見え、聞こえなかったものが聞こえるようになりました。
まわりには、銀色の羽の小さな天使たちが、楽器を手に持ち、
「今宵、救い主がお生まれになった」と歌っていました。
羊飼いはわかりました。今夜はみんながうれしくてたまらず、悪いことをする気にはなれないことを。
天使たちはあらゆるところにいました。
羊飼いは見えるようになったことがうれしくてたまらず、ひざまずいて神さまにお礼を言いました。
…おばあちゃんは話し終えると、ほうっと息をついて言いました。
「羊飼いが見たものを、私たちも見ることができるのだよ。見る目がありさえすれば、天使たちはいつのクリスマスの夜にも、お空をとんでいるのだからね」....
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Merry Christmas♪
