「ムーミン谷の冬」より。
ストーブの上の鍋の中でスープが煮えている。
鍋のふたがひとりでに持ち上がり、スプーンがスープをかき回す。別のスプーンがやってきて、塩壺から塩をすくって入れると、また窓ぎわに戻る。
ぼーっと読んでいると、トゥティッキは魔法使いなのか?と思う。
でもその前にトゥティッキはこう言っている。
「みんな、とてもはずかしがりやなもので、とうとうじぶんを見えなくしちゃったのよ。とても小さいとんがりねずみが、八ぴきも、わたしといっしょに、この家でくらしているんだけどさ。」
スープの番をしていたのは、姿が見えなくなったとんがりねずみたちだったのだ。
なんだかギクリとする。自分を隠すと、見えなくなってしまうのか.....
言いたいことを引っ込めて黙っていたり、感じていることを感じていないふりをしたり、そうしているとだんだん薄らいで、姿が見えなくなってしまう....?
トゥティッキが登場する場面は、シリーズではこの「ムーミン谷の冬」と、もう一か所ある。「ムーミン谷の仲間たち」の中で、いじめられすぎて姿が見えなくなってしまった女の子ニンニを連れてきて、ムーミン一家にあずけていくのだ。
見えているオーロラは、あるのかないのか。見えなくなったとんがりねずみは、いるのかいないのか。
トゥティッキの好きな“あいまいさ”がそこにある。
姿が見えなくなっても、トゥティッキにはその「存在」は見えているのだろうか。不思議なトゥティッキ。
スープの入った皿が空中をやってきて、ムーミンの前のテーブルに乗る。
見慣れない奇妙なものたちの中で、ムーミンは戸棚の中にあるはずの、自分の水着のことを思う。それがまだそこにあるなら、ここは確かにパパの水浴び小屋で、自分のアイデンティティの証明になるかのように。
(ふだんは裸のムーミン、水に入るときには水着を着るのか...)
でもなぜかトゥティッキは、あの戸棚を開けてはいけないと言う。中に水着はまだあるのかないのか、それもあいまいだ。
2018年12月11日
姿が見えなくなった者たち
posted by Sachiko at 22:12
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