以前にも紹介した、マックス・ピカートの「沈黙の世界」から、心に残っているエピソードをひとつ。
ある名もない労働者のモノローグとして書かれているものだ。
「誰もおれを尊敬するものはいない。
だからおれはおれ自身で
おれを尊敬するのだ。
たったひとりで、だ。」
この言葉を読んだときに、何か不思議な感じとともに浮かんできたのは、この、誰からも尊敬されないという名もない労働者への尊敬の念だった。
ああ、そういうことか....と思った。
彼が名もない労働者か、名のある社長かはどちらでもいいことだった。
彼が自分で自分を尊敬するのだと静かに宣言したとき、どこか高い頂にひとり立っているような、何か目に見えない、犯しがたいものをまとったような気がしたのだ。
マックス・ピカートの言葉を用いると、それが「沈黙の相」ということだろうか。
沈黙の相は語る。その聖域をまとった人間を、傷つけることはできないのだ、と。
わたしは、わたし自身で
わたしを尊敬するのだ
たったひとりで
沈黙をまとってそう言えたなら、外側の誰かから何か貰おうとする必要はなくなる。
それは静かな希望であり、安堵でもあったのだ。
2018年09月05日
あるモノローグ
posted by Sachiko at 21:26
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