2018年09月05日

あるモノローグ

以前にも紹介した、マックス・ピカートの「沈黙の世界」から、心に残っているエピソードをひとつ。

ある名もない労働者のモノローグとして書かれているものだ。

「誰もおれを尊敬するものはいない。
 だからおれはおれ自身で
 おれを尊敬するのだ。
 たったひとりで、だ。」

この言葉を読んだときに、何か不思議な感じとともに浮かんできたのは、この、誰からも尊敬されないという名もない労働者への尊敬の念だった。

ああ、そういうことか....と思った。
彼が名もない労働者か、名のある社長かはどちらでもいいことだった。

彼が自分で自分を尊敬するのだと静かに宣言したとき、どこか高い頂にひとり立っているような、何か目に見えない、犯しがたいものをまとったような気がしたのだ。

マックス・ピカートの言葉を用いると、それが「沈黙の相」ということだろうか。
沈黙の相は語る。その聖域をまとった人間を、傷つけることはできないのだ、と。

 わたしは、わたし自身で
 わたしを尊敬するのだ
 たったひとりで

沈黙をまとってそう言えたなら、外側の誰かから何か貰おうとする必要はなくなる。
それは静かな希望であり、安堵でもあったのだ。
 
posted by Sachiko at 21:26 | Comment(2) | 言の葉