イギリスの伝統的な生垣について書かれている、これも、とても古い絵本だ。

農地の境界としてイギリスで長い間大切にされてきたが、現代になって姿を消そうとしている「ヘッジロー」と呼ばれる、生垣の物語。
「生垣は、人間のいとなみとそれを取り巻く自然環境とのあいだに存在するバランスを、もっともよく表現しているのです」(本文より)
生きた木を植えて作られた垣根は、手入れをすることで長い年月を持ちこたえる。また、垣根に使われている植物が成長することにより、より複雑に姿を変えていく。垣根は、昆虫や鳥や小動物の生きる場でもある。
中世の生垣は、薬棚であり菜園でもあった。豊富な植物たちは、薬になり、食用になった。また薪や染料など暮らしに役立つものになり、家畜の餌にもなった。垣根は、「高度に発達したひとつの自然界」として、循環する生態系を現出していた。
時代が移り、生垣の贈り物は忘れられ、食料は店で買うようになり、薬棚の秘密も忘れ去られた。手入れのされない垣根は荒れ、やがて農民は美しさや自然の遺産より有効性に関心を持ち、生垣の代わりに有刺鉄線が張られるようになった。垣根職人は引退し、土手には除草剤がまかれた。
古い囲いをめぐらした耕地は狭くなり、小さな垣根は根こそぎにされ燃やされた。広い農地にいるのは、力を合わせる村人たちではなく、機械を操るひとにぎりの人間になった。
自然界のバランスは傾いてしまった。
生垣は現代農業には役立たない過去の遺物となり、ブルドーザーが襲いかかり、人々を村の原点と結びつけていた緑色の糸を切ってしまうことだろう.....
物語はこのように終わるが、最後のページの見開きには、バランスを回復する方法として生垣の作り方が描かれている。
これはイギリスの話だけれど、「ヘッジロー」を「里山」にすると、そのまま日本の話にも置きかえられるだろう。
里山は野生の獣から家畜を守る緩衝地帯であり、山菜や果実、木の実、キノコ、薬草などの恵みが豊かな、薬棚であり菜園であり、バランスのとれた自然界だった。
世界のどこでも、あるものを手に入れるために別のものを失ったのだ。この収支は帳尻の合うものだったのかどうか....
絵本というスタイルをとっているが中身はずっしりと濃い。ヘッジを彩っていた植物たちや、木で作られた暮らしの道具類が図鑑のように描かれ、季節ごとの風景も美しい。