2018年07月10日

「オフェリアと影の一座」

昨日からの影つながりで、ミヒャエル・エンデの絵本「オフェリアと影の一座」。

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声が小さすぎて女優になれなかったオフェリアさんは、それでもお芝居が大好きなので、町の小さな劇場で、観客からは見えないボックスから役者たちに小声でセリフをささやく仕事についていた。
やがて時代が移り、町の劇場は閉じられることになった。一座は解散し、オフェリアさんもクビになってしまう。

最後の公演の幕が下りたあと、去りがたい思いでいたオフェリアさんは、舞台裏に影がひとつふらふらしているのに気がついた。影は、だれのものでもない影だという。
オフェリアさんは、その影をひきうけることにした。

影をひきうけてくれる人が現れたといううわさを聞きつけて、毎日オフェリアさんのもとには、誰のものでもない影たちがやってくるようになった。
オフェリアさんは影たちに、自分の知っているお芝居のセリフをおぼえさせた。

人々のあいだでは、オフェリアさんはなんだかあやしいという噂が広まりはじめ、とうとうアパートを追い出されてしまった。
あてのない旅に出たオフェリアさんのために、影たちは恩返しをしようと思いつく。シーツで作った垂れ幕の上で、影たちがお芝居をするのだ。このお芝居は評判になり、オフェリアさんはしだいに有名になり、車を買いこみ影の一座として旅して回った。

ある日、吹雪の中で車が立往生したところへ、これまでより数倍大きくて暗い影が現れた。
「死」と名乗るその影も、オフェリアさんは引きうける。
「どうぞ、いらっしゃい。」

つぎの瞬間、オフェリアさんは天国の門の前で、大ぜいの、輝くばかり美しい人々に囲まれて立っていた......


誰も引き取りたがらず、自分のものだと認めたがらない影たち。名前がまた、あやしい。クライノイヤー、ヒトリウス、ムナシーゼ、などなど。

天国で、(元)影たちは、オフェリアさんに拾ってもらったおかげで解き放たれ、もうそこらへんをうろうろしなくてもよくなったのだと言う。
もしも誰にも引きうけてもらえないままなら、影たちはこの世界で何をしているのだろう。
この物語は、自分の影をひきうけることが真にこの世界の役に立つという、ユングの言葉を思い起こさせる。

影たちの救済の物語は、天国の光の中で終わる。オフェリアさんたちは、天使たちのために、人間として地上にあることがどんなふうかを、お芝居にして上演してみせているのだ。
劇場の名は、「オフェリアと光の一座」.。.:*・゚☆
 
posted by Sachiko at 22:26 | Comment(2) | 絵本